高性能な救命胴衣であっても命を守れない!
過酷な災害現場で突きつけられる「7つの落とし穴」
- 気体で膨らませるタイプの救命胴衣は、災害時には、
瓦礫などによって穴が空き「無能」になる可能性が高いんです。
- 流れてくる瓦礫などは、鋭い凶器ですよね。身体を守るために
「防御力」も意識してみてください。
- 浮けばいいわけでもないんです。背中側の浮力の方が多いと、
呼吸ができなくなってしまう可能性が高いんです。
- 冷たい水は、1時間足らずで命を奪います。
「低体温症」に対する対策も行ってください。
- 人はパニックになると、普段通りには動けません。だからこそ
「知識不要」で直感的に着られるシンプルさが大切なんです。
- 生死を分けるのは、わずか1秒の差。
装着に時間がかかる物は、避けたほうが賢明かもしれません。
- 逃げ遅れは致命的になります。「動きやすさ」を大切にして、
動きにくい嵩張るものは選ばないようにしましょう。
いきなり、このように言われても、具体的に災害現場で何が起こるのか、どう対策を立てればいいのか、中にはパッとイメージしづらい部分もありますよね。
ですから、生じる可能性のあるリスクと、その具体的な回避策について、この記事で一つずつ整理していこうと思っています。
とはいえ、まずは先に、こちらの2本の動画をご覧ください。
『で、結局どういった対策が必要なの?』という本題に入る前に、まずは、この動画を見て私が感じたポイントを少しだけお話しさせてください。
実は、ライフジャケットの性能だけではなく、私たちの「心理」や「知識」が命を左右してしまう側面があると思うんです。まずは、そのあたりを、一緒に整理してみませんか。
映像を見て痛感したのは、ライフジャケットを使いこなすには「正しい知識」が欠かせないということです。
映像内で登場したプールのように静かな流れのない水の中であれば、使い方が少し間違っていても、むせ込む程度で済むのかもしれません。ですが、災害時の激しい濁流となると、状況は かなり変わってきますよね。正しく装着できていないと、本来の機能が十分に発揮されずに、思わぬ事態を招いてしまう可能性も否定できません。
にもかかわらず、正しい使い方を完璧に把握している方って、そう多くはないというのが現実なんです。
それに、大規模な災害という極限の状況下では、人は誰しも冷静さを失ってしまうものでしょう。特に、津波到達時間の想定が数分という猶予のない地域にいる場合、冷静な判断を維持することは、生理的な反応として困難だと言わざるを得ません。そんな切迫した状況のなかで「浮力体の位置を微調整する」なんて緻密な動作を強いることは、非常に酷なことなのかもしれません。
だからこそ、特別な知識がなくても「直感的に正しく着られる」シンプルな構造が、命を守る道具選びにおいて、欠かすことのできない重要な要素なのだと考えています。
とはいえ、平時のレジャーでの落水という状況下であれば、統計上の生存率は、ライフジャケットを着用していた方のほうが高いんです。だからこそ、多くの方が、その必要性を説いているのでしょう。
ですから、彼らの主張を完全否定するつもりはありません。ですが、ライフジャケットがあれば安心、というわけでもないんです。実は、次に挙げるような要因によって、平時であっても命を守りきれなかったケースも少なくないのです。
- 岩場などに落下し、身体(頭など)を強く打ってしまった。
- 強い波や濁流によって、岩やコンクリートの壁に叩きつけられてしまった。
- ライフジャケットのサイズが合っていなかった。
- 落水時の衝撃や水の冷たさで、ショック症状(心臓麻痺など)を起こしてしまった。
- 浮いてはいても、冷たい水に体温を奪われ、低体温症に陥った。
など……
こうした事実から、ただ浮いていられればいいというわけではないことが分かりますよね。
平時であっても、例に挙げたような物理的な衝撃を受けてしまう危険性は常に潜んでいますが、災害時という極限の環境においては、そうした危険性は桁違いに跳ね上がってしまうことでしょう。
単に浮くだけでは、衝撃から身体を守ることも、低体温症を防ぐこともできません。浮力に加えて、衝撃から身体を保護する「防御力」や、体温低下を最小限に抑える「断熱性」も、厳しい環境を生き抜くためには、欠かせない要素になってくるんですよね。
おすすめの製品である【ガードベスト】や【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】の説明をする前に、ひとつ記事を紹介させてください。
低体温症の対策について知りたい方は、のちほど【氷が浮いた水の中 30分ぐらいで死亡 冷水の中で生存の可能性を上げる服】という記事も読んでみてくださいね。この記事の最後に、リンクボタンを置いておきますので……。
さて、ここからは災害時に生じるかもしれない問題や、おすすめの製品の特性について、お話しをしていきたいと思っています。
紹介したい製品は2つありますが、まずは動画で、その姿を確認されたであろうガードベストからお話ししますね。視覚的な情報があるほうが、理解の助けになるのではないかと、そう判断したからです。
このガードベストは、本来、岩などに激突した際に生じる衝撃から身体を守るための緩衝装備です。ですが、一定の浮力も備えているため、水害時にも役立つ可能性があると考えています。
というのも、ガードベストで採用されているクロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)は、衝撃を和らげるだけではなく、ライフジャケットの主原料としても選ばれているほど、浮力に富んだ素材だからなんです。ある意味、浮くのは当然のことだとも言えますね。
とはいえ、水害対策を本来の目的として設計されたものではありませんから、過信は禁物なのです。それでも、過酷な環境下において、活用できる場面があるのではないかと、そう考えています。
このガードベストの良いところは、特別な知識が ほぼ必要ないことです。
また、装着に時間や手間がかからない点も、大きなメリットですよね。
災害現場では「1秒の遅れ」が命取りになりかねませんから……。
自動膨張式のライフジャケットは、微調整が難しいため、装着に時間がかかってしまうことが少なくありません。ですが、ガードベストは直感的にサッと着られるところがいいですね。
さらに、自動膨張式の製品には、作動面で不確実性がつきまといます。膨らむまでに多少「時間差」が生じたり、最悪の場合、「トラブル」で十分に膨らまなかったり、様々な問題が発生する可能性があります。また、激しい波しぶきによって生じる「誤膨張」が、避難の最中に予期せぬ混乱を招く可能性だってあるのです。
その点、ガードベストや固型式であれば、こうした作動トラブルとは無縁なんですよね。
ガードベストや固型式の場合、緩衝性を持つ素材そのものに浮力があるため、物理的な衝撃に対する強さも見逃せません。瓦礫などが押し寄せる過酷な環境下では、自動膨張式など気体で膨らませるタイプでは、破損して浮力を失ってしまう可能性があります。ですが、中身の詰まったガードベストや固型式であれば、そうしたリスクをぐっと抑えることができるでしょう。
また、保護できるのは身体の一部分だけではありますが、緩衝材によって衝撃から身を守ることもできるんですよね。
ただ、守れる範囲が胸やお腹だけと限定的なのは事実です。ですから、お尻周りをカバーできる【ネクサス ヒップガード リミテッドプロ】のような製品と組み合わせてみるのはいかがでしょうか。ほんの少しの差かもしれませんが、守れる範囲を広げることができるはずです。
なお、頭や足の裏・手・膝などの守り方については、別の記事で詳しくお話ししますね。
どんな製品にも一長一短があり、完璧な対策を見つけるのは非常に難しいものです。ですが、様々なアイテムを組み合わせることによって、リスクを少しずつ減らしていくことができるのかもしれませんね。
さらに、もうひとつの利点は「浮力の位置」です。胸やお腹のあたりに浮力があるため、顔を水上に出しやすく、呼吸が確保しやすいんですよね。
背中側に浮力が集中している状態では、呼吸を確保することが難しくなってしまうのですが、その理由については、この記事の最後のほうで解説しますので、ぜひ、後でチェックしてみてくださいね。
さて、ここまでは、浮き具類の特性に関する お話をしてきたのですが、水に浸かる前の避難の瞬間についても、ぜひ一緒に考えてみてほしいのです。
少し厳しいお話になりますが、「動きやすさ」が どれほど生死を分かつのか、その重みが伝わるエピソードを共有させてください。
過去の震災では、避難の途中で防災リュックを、その場に投げ捨て、置き去りにせざるを得なかった被災者の方々が大勢いらっしゃいました。
防災リュックの中には、失えば生存率に直結する食料や水など、避難生活に欠かせない物資が入っていたはずなんです。にもかかわらず、それらを投げ捨ててでも、ただ一点、速く走ることだけを選ばなければ生き残れないほど、災害現場は凄まじく過酷な環境だったわけです。一刻を争う極限状態の中では、わずかな重量や動作の鈍さが、取り返しのつかない致命的な遅れへと繋がってしまうのです。
だからこそ、防災リュックの軽量化とあわせて、身に纏う浮力ベストもまた、動作を妨げないタイトな設計のものを選ぶ工夫が欠かせません。重量の軽さはもちろん、全体の厚みも抑えられていれば、狭い瓦礫の間をすり抜ける際の困難さも最小限に留められ、全力で走る際の腕の振りも邪魔しないのです。
浮力材(緩衝材)がある以上、薄手の服よりは当然厚みが出ますが、【ガードベスト】や【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】は、他の浮力ベストに比べて比較的タイトなんですよね。
また、【ガードベスト】や【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】に採用されているクロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)は、激しい動きが前提であるマリンスポーツ用の救命胴衣(ライフジャケット)などにも多用されるほど、伸縮性に優れた動きやすい素材なんです。そのスリムな形状だけではなく、素材そのものが持つ伸縮性も相まって、有事の際にも機動力を損なうリスクを低減させることができる設計だと言えるでしょう。
こうした機動力や、様々な問題を解消した上で、同時に避けて通れない課題として残るのが、先ほどからお話ししている低体温症のことなんです。
この対策として、身体を濡らさない「乾燥断熱スーツ(ドライスーツ)」という選択肢があります。そのなかでもクロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)製のドライスーツであれば、素材自体に緩衝性があるため、全身を衝撃から守ることまでも可能になるのです。
しかし、実は、ここにも「動きやすさ」との兼ね合いという、非常に重要な課題が横たわっているんです。
こうしたスーツなどの上に【ガードジャケット】を重ね着してしまうと、どうしても動きが制限され、逃げ遅れてしまう可能性が高まるらしいのです。
その点、動きやすさを損なわない【ガードベスト】や【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】なら、ドライスーツとの相性もばっちりなんですって……。
また、さきほどの【ネクサス ヒップガード リミテッドプロ[GU-101R]】は、動きやすさも意識して作られているので、ドライスーツとガードベストなど、その両方と重ね着したとしても、それほど動きの邪魔にはならないそうなんですよ。
とはいえ、災害発生時にドライスーツを着る時間を確保できるのか?といった現実的な課題もあります。これは、非常に重く難しい問題ですよね。
先ほど『クロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)製のドライスーツであれば、素材自体に緩衝性があるため、全身を衝撃から守ることまでも可能になるのです。』とお伝えしましたが、ここには重要な注意点があるんです。
もし、走って逃げる際の「動きやすさ」を最優先するのならば、選択肢はルーズフィット(シェルタイプ)のソックス型ドライスーツになります。ですが、このタイプで、クロロプレンゴム製のものは、市場に ほとんど存在しないのが実情なんです。
対して、濁流に揉まれた際の防水性、低体温症を軽減させる保温力、瓦礫などに対する防御力、そして、強制的な浮力を優先するのならば、ダイビング用のクロロプレンゴム製のドライスーツに軍配が上がります。
ですが、ダイビング用は陸上での動きやすさに欠けるという側面があります。『クロロプレンゴム製は動きやすいのでは?』と疑問に思う方が多いのかもしれませんね。本来、動きやすい素材なんですが、ダイビング用は過酷な水中環境を想定して生地が厚めに作られているため、どうしても動きづらさが生じてしまうんです。
ですが、厚みがある分、低体温症を防ぐ保温力や瓦礫などに対する防御力などは、その分高まります。また、陸上では不自由でも、水中では 水の抵抗による「もたつき」が抑えられるため、逆に動きやすくなるという特性があるんです。
対して、先ほど挙げたルーズフィット(シェルタイプ)は、陸上では動きやすくとも、防水性や保温力、防御力などの面では脆さが拭えないのです。
避難において、走って逃げるための機動力は無視できない要素ですよね。ですが、現実を直視すれば、走って逃げても間に合わないケースが大半を占めるのでしょう。そうした過酷な状況下では、濁流に呑まれ水中へ放り出された後の安全性をより重く見るべきではないかと、私はそう考えています。
利点が相反する以上、どちらが正解とは断言できません。だからこそ、この選択には慎重な検討が必要ですよね。ご自身の環境に照らし合わせて、じっくり考えてみてくださいね。
すぐ下のボタンをクリックするとシマノのサイトが開かれます。
楽天やAmazonでも購入できます。公式サイトよりお安くなっていることがあるんですよね。
ただ、Amazonを利用する際は、注意していただきたい点があります。ですから、こちらの記事も合わせて確認しておいてくださいね。
ガードベスト以外にも、おすすめの製品はあるんですね。
地理的な環境や家族構成、そして予算といった現実的な条件は、人によって様々です。また、製品の長所と短所は常に表裏一体なものです。だからこそ、安易に『これが正解』と断定はしません。今のあなたの暮らしに、どちらがよりしっくりくるのか、納得して選べるよう、別の候補についても提示させていただきますね。
MORGEN SKYの救命胴衣「L002」は、ガードベストでも採用されているクロロプレンゴム(CR、通称ネオプレンゴム)を表地に使用した製品です。そのため、ガードベストと同様に、単なる浮力にとどまらず、衝撃を和らげる緩衝性や、体温低下をわずかでも遅らせる断熱性、避難行動を妨げにくい動きやすさと薄さといった、多面的な特性を持ち合わせているのです。
ただし、あえて気になる点を挙げるのならば、装着の手間でしょう。
こちらの製品は、サイドという見えづらく閉めづらい位置にあるファスナーの他にもバックルを留める必要があり、ガードベストよりも若干の手間を要します。一分一秒を争う災害時を思うと、その点は非常に気になりますが、それだけで候補から外してしまうのは、もったいないと感じるくらいに、優れた側面も両方併せ持っているんですね。
その優れた側面を語るうえで、まず触れておきたいのが安全性への考え方です。
本製品は、日本の「桜マーク(国交省型式承認)」を取得していないため、小型船舶の法定備品としては使用できません。しかし、欧州の厳しい安全基準である「CE認証」をクリアしています。市場には形を模しただけの安価な粗悪品が散見されるなかで、公的な安全基準を満たしているという事実は、安心感につながる一つの目安になりますよね。
なかには『桜マーク付きでなければ安全ではない』という考えをお持ちの方もいらっしゃることでしょう。ですが、実のところ、クロロプレンゴム(CR、通称ネオプレンゴム)製のジャケットで桜マークを取得しているものは、極めて限定的なマリンスポーツ向けにしかありません。
桜マークは、船に備え付ける法定備品としての基準を重視しています。その一方で、クロロプレンゴム製は、スポーツ性や機動性を重視した欧州のCE規格に適合しているんですね。クロロプレンゴムは、ゴムであるが故に伸びます。伸びるが故に、「動きやすい」というメリットがあるのですが、日本の厳しい引張強度試験においては、その伸びが構造の不安定さとみなされる傾向があるんです。他にも基準をクリアできない理由はありますが、仮に基準を満たそうとすれば、長所である「薄さ」を捨てて、非常に厚くて固く重い設計にせざるを得なくなってしまうのです。また、それ以外にも油への耐性を高めるための特殊なコーティングなどでコストがかかりすぎて、製品価値が消失してしまうという問題も発生します。「薄くてタイト」「動きやすい」は、クロロプレンゴム製ジャケットの最大の長所ですから、無理に桜マークに拘る必要はないでしょう。浮力補助具としての性能は、CE認証によって示されていますから、極端に不安に思う必要はないと思います。
とはいえ、伸びるという特性は、不安定であるというデメリットになりやすいのも事実です。ですが、この製品は、3つの特徴によって、そのデメリットが解消されています。
まず、表地はクロロプレンゴムですが、芯地には発泡ポリエチレン(EPE)を採用しています。この発泡ポリエチレン(EPE)は、保形性を持つ浮力体なんですね。芯地が この素材であれば、伸び過ぎてしまうという心配は ほぼなく、ある程度形状は保持されます。
ここで比較のために触れておきますが、芯地が発泡ポリエチレン(EPE)で、表地がナイロンやポリエステルなどで作られた製品も存在します。こうしたタイプは、表地自体に浮力がないため、必要な浮力を確保しようとすれば、どうしても中の芯地を厚くせざるを得ないのです。それに加えて、板状やブロック状の芯材を生地のポケットに並べて封入するという構造上の都合など、様々な理由が重なり、どうしてもモコモコと分厚い設計になってしまうのですね。
対して、表地がクロロプレンゴムの場合は、表地そのものにも浮力があるため、その分、芯地を薄く抑えることができます。だからこそ、避難行動を妨げないタイトな設計が可能になるのです。
クロロプレンゴム製が薄くなる理由は他にもありますが、ここでは大切な命を守るための対策の話に絞るため、詳細は割愛させていただきます。
ナイロン製などは、その厚みゆえに前屈や腕を振るなどの動作が制限され、結果として迅速な避難行動の妨げになってしまう可能性があります。実際、桜マークの有る無しに関わらず、このタイプは、分厚くなってしまう傾向があるんですね。そして、自動膨張式を除いた固型式の桜マーク付きの製品の9割以上が、このナイロン製のタイプなんです。そのため、機動力が生死を分ける災害対策において、桜マークの有る無しに縛られる必要はないでしょう。
実際のところ、芯地が発泡ポリエチレン(EPE)であっても、表地がクロロプレンゴムであれば、適度な伸縮性が保たれるため、動きやすさは損なわれません。単に伸びすぎて不安定になるという問題が解消されるだけなんですね。
「表地 クロロプレン × 芯材 EPE」の組み合わせは、純粋なゴム製の不安定さとナイロン製などの嵩張りを解消した、いいとこ取りのハイブリッドな設計であると言えるでしょう。
さらに、複数のナイロンベルトを通すことで、伸びすぎるという欠点を別の形でカバーしています。
先ほど、本製品の欠点をこうお伝えしました。
『サイドという見えづらく閉めづらい位置にあるファスナーの他にもバックルを留める必要があり、ガードベストよりも若干の手間を要します。』
災害時において、ベルトのバックルを留めるという工程は、時間のロスに直結する要素ではあります。ですが、本来、ベルトを留めることは非常に重要なんですね。ですから、バックルを留めるという工程は、決して省かないでください。
『それほど時間のロスではない』と思う方もいらっしゃることでしょう。ある意味その考えは正しいのですが、災害時は他に行うべきことが山積していますし、津波の凄まじい破壊力を考えると、様々な防具を身につけたほうが良く、だからこそ、できる限り一つ一つの作業量を減らしたいと、そう考えています。そんな極限状況のなかで、サイドという見えづらく閉めづらい位置にあるファスナーやバックルを手探りで扱わなければならなくなるのです。サイドファスナーでなければ、さほど問題にはならないでしょう。
とはいえ、サイドファスナーは利点でもあるのです。フロントファスナーの場合、激しい水流下では、その勢いでファスナーが押し開かれ、胸や肩がはだけてしまう可能性があります。浮力の位置が崩れれば、顔が水中に沈む可能性だってあるのです。ですが、サイドにファスナーやバックルがある構造の場合、万が一ファスナーが開いてしまっても、胸元がはだけることはありません。サイドに これらが配置されていることで、伸びやすく形状が崩れやすいクロロプレンゴム製の特性を、うまくカバーできているのですね。私が あえて欠点として語った、この要素は、実は本来、利点でもあるのです。
また、サイズ選びに関しても大切なポイントがあります。ドライスーツと重ね着する兼ね合いで、サイズは大きめのものを選ぶ必要がありますが、余裕がありすぎるのも問題なんです。装着したときに『少しキツいかな?』と感じる程度の方が、生地が伸びて形状が崩れるのを防げます。これは ぜひ覚えておいてくださいね。ベルトも、ユルユルにならないよう、事前にしっかりとサイズ調整をお願いいたします。
こうした製品自体のスペックに加え、ラインナップの幅広さも見逃せないんですよね。
こういった製品では子ども用が作られない傾向にはありますが、子供サイズを、ある程度カバーできているところも大きなポイントなんです。
お子さんの分の備えも欠かせないご家庭にとって、一つの選択肢になるのかもしれませんね。
さらに、ガードベストに比べて手に取りやすい価格帯なのも、現実的なメリットでしょう。
「装着に要する時間」と、「安全基準・サイズ展開・コスト」といった利点、これらを天秤にかけて、何が最優先の条件なのか、ご自身の地理的な環境や家族構成に照らし合わせて、選んでみてくださいね。
全身という広範囲の保護・低体温症の対策・GPS機能付き
とはいえ、高い壁となる導入条件と限定的な販売数が問題!
津波や水害の対策用として開発された【救命胴衣 低体温症対策 イマーションスーツ + GPS(GNSS)機能】という製品があります。これは、単に水面に浮くだけの機能に留まらず、押し寄せる瓦礫などの衝撃や、命を脅かす低体温症から身を守る「全身防護」の思想で作られています。
さらに、この製品にはGPS(GNSS)機能がついているため、津波に流されてしまった方の位置情報まで分かるんです。
ですが、非常に希少で高いスペックを誇る救命胴衣なのですが、実は、どなたでも自由に購入できるというわけではないんです。
公式サイトを確認したところ、『予約購入申込受付開始 第1弾1,000着 受付中』との記載がありました。このことから、販売数が限定されており、誰でも自由に購入できる状態ではないことが分かります。加えて、『システムをご利用になられるには、お住いの自治体において通信設備およびアプリケーションの導入が完了している必要があります。』との記載もありました。このことからも、やはり、誰でも自由に購入できる状態ではないことが分かります。
こうした状況を踏まえると、この製品が広く普及し、誰でも購入できるような状態になるまでは、他の手段で代用せざるを得ないのが現状なのでしょう(普及計画はあるようですが、主に自治体の職員さん向けという側面もあり、今後、一般の方々に、どの程度広まっていくのかについては、私にも予測しにくい部分があります。もちろん、対象が自治体の職員さんだけに限定されているわけではないのですが……。)。
【過信は命取りに!津波対策用製品の「物理的な限界」】
非常に優れた製品ではありますが、これがあれば絶対に大丈夫!だと過信しすぎるのは禁物です。
なぜなら、どれほど防御力を高めたとしても、津波がもたらす あらゆる破壊や衝撃から、完璧に身体を守り切ることができるわけではないからです。
この製品の「浮揚性(浮力)・断熱性(保温力)・緩衝性(防御力)」を担っているのは、発泡ポリエチレン(EPE)という素材です。この素材、たしかに緩衝性能を保持しており、衝撃吸収性がありますが、限界があることも事実なんです。
ですから、たとえ、この製品を装着していたとしても、まずは全力で安全な高所へ避難することを、何よりも心掛けてくださいね。
津波が持つ破壊力の凄まじさを物語る事例を、ひとつお話しさせてくださいね。
津波の襲来から30分も経たないうちに発生してしまった津波の上の大規模な火災。この火災の原因となってしまった津波の破壊力についてのお話です。
大量の水が溢れる津波の上で、火災が発生するとは想像しにくいのかもしれませんが、実際には恐ろしい規模の火災が発生してしまいました。その原因の一つが、プロパンガスボンベの破壊です(車両配線のショートなど、他にも複数の原因が確認されています)。安全性を第一に、頑丈に造られているはずのガスボンベですら、津波は引きちぎり、破壊をしてしまいました。それ故に、中の可燃性ガスが漏れ出てしまったのです。そこへ猛烈な速さで流されてきた車両や建築物などが激突し、火花が散ってガスに引火してしまったのです。
また、かなり頑丈に造られているはずの何らかの設備ですら、ほぼ破壊し尽くすのが、自然の猛威としての津波です。
実際、津波高たった1mという低い高さであっても、自力では立っていられずに流され、漂流物に激突するため、想定の死亡率は、ほぼ100%とされているほど、津波は驚異的な破壊力に満ちているのです。
これほどの破壊力を持つ津波や瓦礫などが、もし生身の人間に直撃してしまったとしたら、いったいどうなるのでしょうか? 仮に、衝撃吸収性に優れた製品(救命胴衣など)を身に着けていたとしても、その衝撃を完璧に無効化することは、不可能に近いでしょう。
これは決して、製品の性能を非難しているわけではありません。津波の物理的な破壊力が、あまりにも過酷であることが根本的な問題なんです。どんな製品であれ、津波に対しては、ほぼ太刀打ちできないのが現実なのでしょう。
それは【ガードベスト】・【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】・【クロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)製のドライスーツ】であっても同じです。防御力は完璧ではありません。
変な話なのですが、それこそファンタジーの世界のように宙にでも浮かない限り、津波の衝撃に完璧に対応するのは、不可能なのかもしれませんね。
とはいえ、宙に浮く方法ではなく、物理的な衝撃から身を守る手段として「津波用シェルター」という選択肢も存在します。しかし、それを購入できるほど高額な費用を投じることができる金銭力があるのならば、私は、あえて「その資金を、より安全な地域への転居に充てること」を検討していただきたいと、そう願っているのです。
(例外として、企業の経営者など、多くの従業員の命を預かっている立場の方であるのならば、施設内にシェルターを設置するという選択は、非常に意義のある投資になるのかもしれませんけれど……。)
転居費用を捻出できない方のほうが多いと思いますので、この記事の後半部において、生存の可能性をわずかでも手繰り寄せるための対策法をご説明しております。よろしければ、のちほど、ご確認くださいませ。
【大規模な地震がもたらす救助リソースの物理的限界】
先程お伝えした通り……
この製品にはGPS(GNSS)機能がついているため、津波に流されてしまった方の位置情報が分かります。その情報をもとに救命救助隊が活動できるため、助かる可能性が高まる環境を作れるとのことです。
それって、被災された方々にとって、本当に心強いシステムですよね。
ただ、失礼を承知で申し上げますと、いざという時に「救助にあたる隊員の方々の人数が足りるのか」といった点も、どうしても気になってしまうのです。なぜなら、救命胴衣のおかげで一時的に命が助かったとしても、隊員の方々の人数が不足していれば、肝心の救助が間に合わず、結果として(機能が)意味をなさなくなってしまう恐れがあるからです。
南海トラフ巨大地震を例に挙げると、あまりにも被害が「広域」に及ぶため、津波に巻き込まれてしまう方の人数は、私たちの想像を絶する規模になります。しかも、津波到達まで「わずか数分」と想定されている地域も多く、そんな短時間で全員が高所へ逃げ切ることは、ほぼ不可能に近いでしょう。
あくまで最悪の場合ですが、「何十万人」という、にわかには信じがたいほど多くの方が流されてしまう可能性もあるのです。
こうした状況を考えると、救助にあたる隊員の方々の人数も、かなり必要になってしまいますが、果たして、それだけの人数をしっかりと確保できるのでしょうか。
もし、現在の1,000着という限定的な販売数のまま、それほど数を増やさないのであれば、隊員の人数の確保は比較的可能なのかもしれません。 ですが、それでは、極わずかな人しか救えないという問題が残ります。ですから、今後、販売数を大幅に増やしていくのであれば、それに伴い、隊員の人数の増加も必要不可欠な条件となってくるでしょう。
もちろん、必要な人数を確保するために、何らかの対策は講じられているはずです。おそらく、何も手を打っていないということはないでしょう(もっとも、自衛隊や消防隊の方々に頼るのであれば、人数確保に関しては、製品の生産者側の力では、どうにもならない面もありますけれどね……。自衛隊の方々の人数、足りていませんからね……)。ですが、地震の規模があまりにも大きすぎるために、その規模に見合う人数を用意するのは、現実的に不可能だと思ってしまうんですよね。
また、救命救助隊員の人数確保については、他にも不安に感じることがあります。
被害想定エリアが東京から九州までと広域にわたるため、被災地外からの救援は、必然的に遠方からの派遣となるケースが多くなるはずです。一刻を争う事態のなか、移動に時間を取られ、救助の初動が遅れてしまう可能性も否定できません。
一方、近隣や被害想定エリア内で隊員を募るほうが迅速なのかもしれませんが、その場合は隊員の方々も被災者となってしまうでしょう。お怪我をされたり、身の回りに様々な困難が生じたりして、救助活動そのものが難しくなってしまう可能性もあるのです。頼みの綱である隊員の方々の人数が、発災直後に減ってしまう可能性も考えられますよね。
このように、被災地外からの派遣であれ、被災地内からの確保であれ、いずれのケースにおいても、大きなリスクを伴うことは、認識しておく必要があると思っています。
さらに、このような問題も発生する可能性があるでしょう。
ある動画の説明によると、救助活動は船で行われるそうです。
津波に流された方々が同じ場所に固まっていれば、救助活動が非効率にならずにすむのかもしれません。ですが、もし一人ひとりがバラバラの場所に漂流してしまった場合、たった一人の救助のために、船一隻が必要になる可能性があります。
そうなると、隊員の人数だけではなく、船の数も相当数必要になってしまいますが、果たして、十分な数を確保できるのでしょうか?
GPS機能付きであることは非常に素晴らしいことなのですが、やはり、想定される地震の規模が、あまりにもデカ過ぎるために、それに見合う数(隊員数・船の隻数・販売数)を準備することは、非常に難しいのではないかと思ってしまうのです。
これは生産者(販売者)の方のせいではなく、仕方がないことではあるのですが、救われる命が一部に限られてしまうのではないか?といった点に、なんとも言葉にならない複雑な思いを感じずにはいられません。
【救助活動中に立ちはだかる いくつかの現実】
もし仮に、救命救助隊の方々の人数や船の数を十分に確保できたとしても、別の問題が発生する可能性があります。
過去の津波火災では、積み重なった 瓦礫(がれき)が道路をふさぎ、消防隊の皆さんが現場に辿り着けなかったり、危険な状況のため一時避難を余儀なくされたり、多岐にわたる困難な状況が、いくつも発生したそうなんです。その結果、消火活動が満足に行えなかったことが多々あったそうなんですね。
こうした過去の例を思うと、消火活動に限らず、流されてしまった方々の救助活動も、同じように難航する可能性はありますよね。
また、非常に心苦しい話ではありますが、救助に向かう途中で遭遇する【GPS機能付き救命胴衣を装着していない被災者の方々】と、どう向き合っていくのかといった課題もあります。目の前で助けを求めている人々を、決して見捨てることなんてできませんよね。
震災時には、救急隊員(救急車)の方々が依頼者のもとへ向かう途中で、他の被災者の方々からも助けを求められ、目的地になかなか辿り着けなかった……という壮絶な葛藤(トリアージのような葛藤)が生じたそうです。
これと同じような問題が、海の上でも発生する可能性がありますよね。
今後、救助にヘリコプターが使われるのかどうかは分かりませんが、仮に空から救助を行うとしても、機数には限りがあるため、限界が生じてしまうことでしょう。
先ほどお話ししたような理由で行く手を阻まれないように、海の上の障害物を避けて、空から救助を行えるように対処したとしても、機数には限りがあるでしょうから、救助活動そのものに限界が生じてしまう可能性も否定できません。
私は、どうしても、そんな風に感じてしまうんです。
【結果的に……】
どんなに優れた性能の製品があったとしても、大地震は、その性能を台無しにしてしまうほどの過酷さを人々に押し付けてきます。このような状況に対し、私たちは、どのように対処するべきなのでしょうか?
GPS機能付き救命胴衣を装着していたとしても、状況によっては隊員の方々に助けてもらえない可能性もなくはないでしょう。だからこそ、自力で、ある程度対処できる余地が残るのであれば、まだマシなのですけれども……。
というのも、津波から奇跡的に生還された方々の実例を見ると、その多くに共通しているのが「必死で何かにしがみついていた」というところだからなんです。
そのことによって、楽に手足を動かせるかどうかといった点だけではなく、手足の先に「渾身の力を込められるか」どうかといった点も、生存を分かつ重要な条件であることが分かります。
ですから、GPS機能付き救命胴衣を装着することによって、手足の先の機動力が妨げられてしまわないかといった点も、やはり気になってしまうのですね。ナイロン製と発泡ポリエチレン製の組み合わせに、よくありがちな問題ではありますが、やはり嵩張りのある分厚いデザインとなっております。
実際、ある動画によれば「装着状態での歩行に問題はない」とのことで、それ自体はとても良いことなのですが、だからといって「全力でしがみつけるか」どうかまでは判断ができないのです。結果がどうなるか分からないが故に、私は慎重に考えてしまうのですね。
また、画像だけでは手先の仕様までは把握できないため、手先の自由度に関しては、多少の危惧を覚えざるを得ません。一例だけを挙げるのならば、防刃仕様ではない可能性が高く、ささくれ立った瓦礫(がれき)などを掴むのは困難なのではないだろうか……といった懸念も拭えないのです。
さらに、鋭利なガラスや釘に対する足裏の強度についても気掛かりな点があります。過去の災害時では、足を負傷して動けなくなったことで逃げ遅れ、命を落としてしまった方が大勢いらっしゃるからです。鋭利なガラスや釘が散乱する中では、足裏の強度が生死に直結します。
素材の特性から推測すると、この製品の足底部分に過度な「耐貫通性」を期待するのは難しいと考えられます。発泡ポリエチレンは、緩衝性があり衝撃吸収性には優れていますが、鋭利なガラスや釘を防げるほどの強度はないからです。
かといって、その不足を補おうと防御力を高めるために全身を頑丈に固めてしまえば、重量が増し、浮力を上回る重力がかかって身体が沈むという別のリスクが発生してしまうでしょう。安全面を考慮すれば、ガチガチに固めてしまうのは現実的ではないと、そう思われます。
それならば、せめて足の裏といった一部の部位だけでも、強化できないだろうかと考えてしまうのです。命に関わることであるが故に、そうした細部まで思考を巡らせる必要があると考えてしまうのですね。
【製品の利点であるはずの特性によって生じるジレンマ】
断熱性に優れた素材で全身を覆うタイプの救命胴衣で気になるのが、夏場の「熱中症」のリスクです。毎年、薄着の状態であっても熱中症で命を落とす方がいらっしゃるぐらいですから、これは決して無視できない問題ですよね。
全身を覆わない上半身だけをガードするタイプのGPS機能付き救命胴衣 🔗といった製品も存在します。こちらの製品であれば、熱中症を回避できそうですが、瓦礫などの衝撃から身を守れる範囲が限られてしまいます。
過去の津波の死亡例のなかには、足をバッサリと切り落とされてしまったという、酷く恐ろし過ぎる被害があります。この例で、上半身だけを守るのでは、足りないことが分かりますよね。
ですから、結果的に、衝撃を回避するために、熱中症のリスクを受け入れるか、熱中症を回避するために、衝撃のリスクを受け入れるか、といったジレンマが発生しそうです。
本音を言えば、どちらも選択したくはありません。できれば、この両方のリスクを回避したいというのが、多くの方の本音ではないでしょうか。
また、津波が発生した後は、大規模な火災が発生しやすくなるため、たとえ冬場であっても、火災の熱による暑さの問題が発生する可能性があります。その場合には、救命胴衣の高い断熱性が、かえって問題を引き起こす可能性もあるでしょう。
そういった状況から、暑さに耐えかねて救命胴衣を脱いでしまえば、浮力も防御力も失ってしまうことになるのです。
そのため、上半身だけをガードするGPS機能付き救命胴衣にすれば、浮力を確保しつつも暑さを回避できるため、マシな環境になると思いたいところなんですが、その後、沖に流されてしまったら、今度は「低体温症」に命を脅かされてしまう可能性があるわけです。暑いと思ったら寒い、寒いと思ったら暑いといったように状況が一定しなくなる可能性があるでしょう。
何が問題かと言いますと、津波襲来後、わずか30分も経たないうちに大火災が発生してしまった実例があるうえに、津波は一度で終わらずに、繰り返し発生してしまう特性があるのです。そのため、暑さや寒さの状態が頻繁に変動し、「何を優先すべきなのか」判断が難しくなってしまう可能性があるでしょう。
また、大火災発生中、水上と水中の寒暖差が極端に激しくなることが予想されます。暑さと寒さが同時に襲いかかってくるため、何にどう対応すべきか、優先順位を見失ってしまうのかもしれませんね。
そして、もしGPS機能付き救命胴衣に火が燃え移るような事態になれば、残酷な結果を招いてしまうため、防炎加工が必要となる可能性があります。
ただ、防炎加工を施したとしても、全く燃えなくなるわけではありませんから、ある程度改善されるだけで、実質的な効果は、ほぼ期待できないのかもしれませんが……。
GPS機能付き救命胴衣なのですが、使用されている複数の素材特性から考えるに、熱に対しては脆弱だと言わざるを得ません。
表地や芯地の発泡ポリエチレン(EPE)は、熱によって容易に溶け出す性質を持っているんですね。大規模な火災では、強い風に煽られた火の粉が、驚くほど遠くから飛んでくることも珍しくありません。もし、その熱で素材が溶ければ、肌に直接張り付いて、深刻な火傷を引き起こす可能性もあるでしょう。
これは決して楽観視できない問題なんですよね。どうすればいいのでしょうか?
一方で、【ガードベスト】や【MORGEN SKY 救命胴衣 L002】の場合、素材の構成を見る限りでは、熱に対しては一定の耐性を備えていそうです。
これらの主素材であるクロロプレンゴムは、電気設備や火気を扱う機器の部品にも採用されるほど熱に強く、難燃性(燃え難い)や自己消火性(火源から離すと自ら消化する)といった特性があるんですね。
とはいえ、これらも決して、安全な不燃性(燃えない)製品というわけではありませんから、物理的な限界は必ず存在します。ですから、もし購入された場合には、その性能を過信せずに慎重に扱うようにしてくださいね。
これ以外にも、GPS機能付き救命胴衣に関して、物理的な問題点が2つ思い浮かびます。ですが、これ以上書き進めると、内容が冗長になり、読者の皆様を疲れさせてしまう可能性がありますから、このお話は一旦ここまでにしたいと思います。
必ずと言っていいほど、物事には良い面と悪い面が表裏一体で存在し、メリットしか存在しない選択肢なんて、ほぼ存在しないでしょう。ですから、単純に「良い」「悪い」と判断をするのではなく、多角的に捉えることが大切だと思います。
そのため、もし運良く この製品を手に入れることができたとしても、『自分は大丈夫だ』と過信をせず、必死で安全な高所へ逃げていただきたいと、そう強く願っているのですね。
とはいえ、皆が一斉に高所に避難をすることで「群衆雪崩🔗」が起きるのではないかといった懸念もあります。実際に、群衆雪崩によって尊い命が失われた実例もあるからです。
ただ、私が懸念している事柄を全て書き連ねてしまうと、お伝えする内容が多岐にわたり、論点がぼやけてしまううえに、かなりの情報量になってしまうことで、読者の皆様を疲れさせてしまう可能性があります。ですので、これに関しても、今回は、このあたりで控えておこうと思います。
【カタログスペックの罠】
防水等級IP68は 静かな常温の真水で試験
激しい濁流や海水では保証されない……etc.
サイト内の説明をご覧になると、お分かりいただけるかと思いますが、この製品はスマートトラッカーに対応しているようです。それをライフジャケットに装着することで、端末から着用者の位置を特定できる仕組みになっているそうです。GPS機能に似た、とても便利そうな機能ですよね。
そして、サイトには、「IP68」と記載されています。それの右側の数字「8」が、防水性能のレベル(防水等級)を示しているんですね。
「IP68」の右側の数字を見れば、防水性能のレベルが、ある程度把握できます。ですが、津波や水害対策用の製品として考える場合、この防水等級の数字だけで安全性をチェックするのは、少し注意が必要なんです。なぜなら、防水等級のテストというのは、基本的に「常温の水道水」で行われるものだからです。
そのため、以下のリストにあるような「常温の水道水」とは成分や状態が異なる水分に対して、同じレベルの防水性能が発揮されるとは限らないのです。
- 塩分を多く含む海水
- 泥や化学物質やバクテリアなど様々な物質が含まれている川
- 入浴剤や洗剤や石鹸が溶けている水やお湯
- 酸やアルカリが含まれている液体
- 塩素濃度が高いプール
- 高温のお湯や温泉
など、様々な液体が考えられるんですね。
一例を挙げますと、海水のように塩が溶けた水は、ただの真水よりも電気製品のショートを引き起こしやすくしてしまいます。また、電気製品の防水性能・防塵性能を高めているパッキン部分を、塩水が劣化させてしまうことがあり、防水性や密閉性が失われる可能性があります。(他にも様々な現象が発生する可能性がありますが、文章が長くなるため、ここでは割愛させていただきます。)
ですから、防水等級の数字が高いからといって、どのような状況でも安全性が保証されるわけではない……という点は、ぜひ知っておいていただきたいポイントなんですね。
また、水の中の成分や状態以外の点にも、注意が必要でしょう。
それは、津波や水害によって発生する「強い水圧」や「激しい水流」に関わる問題のことなんです。
機器の防水性能を示すIPX8(防水等級8)のテストは、水の流れがない「静水」の中で実施されます。そのため、津波や水害時の「水圧」や「水流」に耐えられるかどうかは、IPX8という等級とは全く別の問題なんですね。必ずしも耐えられるとは限らず、同じIPX8の製品であっても、製品ごとで、それぞれ強度が異なることが多いんです。
そして、IPX8のテスト内容は、「IPX7(防水等級7)よりも厳しいテスト内容」という定義以外、具体的なテスト内容が統一されていません。実は、各メーカーの独自の基準に委ねられてしまっているのです。一方、IPX7のテスト内容は、「水の深さ15cm~1mに30分間浸けること」であると、国際電気標準会議(IEC)によって明確に定められています。
そのため、同じIPX8の製品であっても、水没に対する耐性のレベルは、製品ごとで異なってしまっていることが多いんですね。具体的には、耐えられる水深や水没時間が、製品によって異なってしまうということなんです。
また、防水等級を解説しているサイトでは、よく次のような説明を目にします。
- IPX7:短時間の水没に耐性がある。
- IPX8:長時間の水没に耐性がある。
正直に申し上げて、この説明はあまりにも大雑把すぎます。
先程お伝えした通り、IPX8は「IPX7(水深1mに30分)よりも少しでも厳しい条件」でテストをクリアしていれば、その名を冠して販売できてしまうからです。つまり、必ずしも私たちがイメージするような長時間の水没に耐えられる保証があるわけではないのです。
また、IPX8の中身は、メーカーが決めた試験内容によって驚くほどバラバラです。
- A社の製品: 「水深2mで60分」に耐えられる設計
- B社の製品: 「水深1.5mで30分」が限界の設計
このように、同じ「IPX8」というラベルが貼られていても、その設計限界には大きな差があるのが現実なんですね。だからこそ、スペック表の「IPX8」という文字だけを見て安心してしまうのは、非常に危険だと言わざるを得ません。
それに、「水の成分や状態、水圧や水流、水深や水没時間」の問題だけではありません。瓦礫などの漂流物にぶつかって衝撃が加わった場合にも、防水性が損なわれてしまう可能性があるでしょう。
衝撃や塩水などの様々な要因によって、万が一ショートを起こして発熱や破裂(爆発)が生じた場合には、着用している人が大火傷するでは済まない事態も考えられます。
とはいえ、水害対策(津波は除く)であれば、IP68といった最高水準の防水等級を持つ電気製品を選び、さらに防水ケース(バック・ポーチ)などに入れて「二重の防御」をすることによって、ある程度問題が解消されます。そうすることによって、電気製品の生存率が格段に高くなることでしょう。防水ケース(バック・ポーチ)類には、次のような効果が期待できます。瓦礫などの衝突防止・水流の遮断・泥や化学物質などの付着防止、などです。
ただし、あまりにも強い衝撃が加わった場合には、残念ながら故障する可能性があることを、あらかじめ理解しておいてくださいね。
また、防水ケース(バック・ポーチ)類には、劣悪品もあるため、信頼性の高いメーカーの製品を選ぶようにしましょう。
さらに、もう一点お伝えしておかなければならないことがあります。
たとえ最高水準の「IPX8」を謳っている防水ケース(バック・ポーチ)類であっても、スペック的に「完全防水」を保証しているとは限らないという点についてです。
先ほども触れた通り、IPX8の基準は、メーカーごとで異なります。そのため、製品ごとで耐えられるスペックがバラバラなんですね。そして、その個別の設計限界を超えた長時間の使用になれば、当然、浸水を許してしまうことでしょう。
さらに、使用中の摩耗や劣化、あるいは極端な水圧が加わった場合には、どれほど優れたアイテムであっても浸水を許してしまう可能性があります。
こうしたアイテムは、あくまで浸水までの「時間」を稼ぎ、機器の生存率を少しでも高めるための道具に過ぎません。ですから、IPX8だから安心だと過信をせずに、常に限界があることを忘れないでくださいね。
少し補足をすると、IP68の左側にある「6」という数字は、防塵等級なんです。つまり、砂埃や粉塵にどれだけ強いかという基準なんですね。
「6」が最高水準ですが、災害時を思うと、最高水準であったほうが安心なのかな?、と個人的には、そう判断しています。
それでは、ここで、津波のお話に戻しますね……。
津波用の製品なら、こうした塩害や衝撃などへの対策は、当然講じられているはずだと思いたいところなのですが、Webサイトの説明を見ていると『そこまで想定しているのかな?』と、つい慎重になってしまうんですね。
これまでの経験上、製品を開発・販売している側が、必ずしも幅広い分野の知識を網羅しているとは限らない……というのが、正直な実感としてあるのです。
もちろん、塩水や衝撃などへの対策が行われていないと決めつけているわけではありません。対策が行われているのだと信じたいところではあります。
ですが、もし対策が講じられているのであれば、ぜひ、そこを詳しくサイトで説明していただきたいと、そう思っているんですね。
【スマートトラッカーは意味を成さなくなる可能性有り!】
防水等級という外側の問題点だけではなく、スマートトラッカーという機能そのものが抱える構造的な問題点についても触れておく必要があります。
災害時にはインフラが壊滅する可能性が高いですよね。そうした過酷な状況下で起こりうる現実的な問題点を、少し整理してみます。
そもそも、スマートトラッカーは、GPS衛星と通信する機能も、単独でネットに繋がる力も、持ち合わせていません。常に外部に存在する通信可能なデバイスのネットワークを借りることで、初めて自分の位置情報を知らせることができる道具なんです。
ですから、災害によって周囲の通信環境が完全に閉ざされ、信号を橋渡しする存在が消えてしまった場所では、リアルタイムの追跡は物理的に不可能になってしまうのですね。
非情な現実を言えば、画面には「最後に通信が途切れた場所(ラストロケーション)」が表示され続ける状態になってしまいます。本人がそこから移動していたとしても、それを知る術がないのです。
また、仮に通信が維持できていたとしても、Bluetooth信号が届くのは せいぜい10mから数十m程度。遮蔽物があれば、その距離はさらに縮まってしまいます。状況によっては、この機能が、事実上、意味をなさなくなってしまう可能性があるのです。
スマートトラッカー付き救命胴衣の浮力体に関する問題点
先程お伝えした機能面の限界もさることながら、装備そのものの作りについても、やはり見過ごせない点があります。
これまで他の製品でも触れてきた共通の課題がありますが、やはり、浮力体が硬質ウレタンフォームである このタイプも、クロロプレンゴム製にある「しなやかな薄さ」とは無縁な状態ですね。どうしても「分厚さ」が前面に出てしまい、装着時のボリューム感が少々気になってしまいます。
さらに多くの問題点を抱えていますが、それについては、のちほど、【浮力体の素材の特性比較表】にて、お知らせしますね。
結果的に、浮力体の特性や構造上の限界によって、この製品では、様々な物理的制約と向き合わなければならなくなってしまうのです。
色々と指摘ばかりして申し訳ありませんでした。命に関わることであるが故、どうかお許しください。
もう一度GPS機能付き救命胴衣について触れてみます
実はGPS機能についても不安があるんです。
上で散々、高性能だという前提でお話してきた【救命胴衣 低体温症対策 イマーションスーツ+GPS(GNSS)機能】という製品のお話に戻るのですが、実はこれ、防水性能の有る無しすら不明なので、IPX8なのかどうなのかも全く分かりません。さらに、ショートなどの塩水への対策を行っているのかどうかについても、正直なところ、よく分からないのです。
公式サイト内で防水等級に関する情報が見当たらなかったため、『おそらく問題はないだろう』と判断してしまったのですが、対策が講じられていない可能性もないわけではありません。
もし、『防水性のある生地で覆っているから、GPSは海水から守られて問題がない』という判断で製品を製造してしまっているとしたら、非常に大きな問題があることになりますね。災害時は生地が裂けて入水してしまう可能性がありますから……。
ただ、さすがに、そこまで安易な判断はしていないだろうと、そう思ってはおりますが……。
また、別の問題もあります。
仮に製品自体が壊れずに動作していたとしても、生地が裂けて浸水し、GPSのアンテナが1cmでも水面下に沈んでしまえば、GPSの電波は、水(特に塩水)を ほとんど透過することができないのです。この物理的な壁に対し、製品側で、どのような回避策が講じられているのか。そこは、開発者側の設計思想を信じたいところではあるのですけれど……。
さらに、衝撃に対する防御力、言い換えれば、耐衝撃性と耐圧性があるのかどうなのかも、実際のところ、よく分からないのです。
ですから、本来であれば、自費で全ての製品を購入し、破壊検査など様々な実験を行い、その結果を皆様に共有したいところではあるのですが……。しかしながら、現状では資金的に、そこまでの大規模な検証が叶わないのが心苦しい限りです。
確実な検証データがない以上、私にできるのは、「メーカーの言葉を鵜呑みにせずに、最悪の事態を想定して警鐘を鳴らし続けること」だけなのかもしれませんね。
市販の津波対策用救命胴衣における機能的限界と代替案
現在市販されている津波対策用の多くは、上半身周辺のみをカバーするタイプが主流なんですね。ですが、この形状だと、どうしても保護面積が小さくなってしまうため、激流の中で入り乱れる瓦礫などの衝撃に対し、どこまで身を守れるのか、私としても拭い去れない不安が残ってしまうんです。
また、露出部分が多いことで、命に直結する低体温症への対策に関しては、ほぼ効果を期待できないというのが現実でしょう。
一方で、全身を覆うタイプの救命胴衣も存在しますが、それらは必ずしも津波を想定した設計ではありません。保温や浮力の確保には一定の効果が見込めるものの、製品仕様に瓦礫などの衝突に対する防御力の記載がない以上、過酷な環境下で身体を守り切れるのかは未知数と言わざるを得ません。
そして、もう一点気になるのは、その形状です。全体的に分厚いうえに、手足の先端(指先や手の平など)も、もったりとしていて、お世辞にも動きやすい状態とは言えません。今まで散々お話ししてきたGPS機能付き救命胴衣と比べても、さらに指先の自由が利かず、周囲のものを掴むことが困難に見えるんですよね。こうした「末端の不自由さ」は、避難時や救助を待つ局面において、自力で生き残るための行動を著しく阻害する大きな問題となるでしょう。
結局のところ、どの製品も「厚みによる手足の先の不自由さ」と「防護範囲の狭さ」の間で、バランスが取れずにいるのが実情です。
市場にある様々な製品を検討した範囲では、残念ながら単体ですべてを解決できるものは確認できませんでした。そのため、現状の限界を踏まえた上で、現時点で比較的合理的だと判断できる組み合わせ(選択肢)を整理しようと思います。
それは、「ドライスーツ」をベースに「スリムな浮力ベスト」「各種防具」そして「小型の浮力アイテム」を組み合わせていく方法です。
まず、ドライスーツを軸に据えることで、低い水温から体温を守り、死に至るまでの時間を引き延ばします。
足先がソックス型になっているドライスーツを選べば、その上から釘やガラスの貫通を防ぐ「踏み抜き防止インソール」入りの靴を履くことができますし、手の保護についても、滑り止めシリコン付きの「防刃手袋」と極薄の「防水手袋」を両方着用するなど、自分の命を守るための選択が、ある程度自由に行えるのです。まず、鋭利な物から手足の先を守らなければ、何かを必死に掴むことも、踏ん張ることもできません。
ダイビング用クロロプレンゴム製のドライスーツの場合、構造上、関節付近の動かしにくさは避けられませんが、全身一体型の救命胴衣に比べれば、手足の「末端」の機動力に関してだけは、かなりマシな状態を確保できるでしょう。
その上に、厚みを抑えたタイトな浮力ベストを重ね、必要な浮力を加えます。
自動膨張式のような気体膨張式タイプを除外した場合、主な浮力材としては、【クロロプレンゴム(CR、ネオプレンゴム)】【発泡ポリエチレン(EPE)】【硬質ウレタンフォーム】などが挙げられます。
以下の比較表で、それぞれの浮力体の特性と限界を一覧にまとめてみたので、改めて その違いを ご確認くださいませ。
浮力体の素材の特性比較表
| 素材 |
クロロプレン ゴム |
発泡 ポリエチレン |
硬質 ウレタンフォーム |
| 主な用途 |
ウェットスーツ 高級浮力ベスト |
一般的な フローティング ベスト |
安価な救命胴衣 固定式浮き具 |
| 衝撃吸収 |
◎ 非常に高い |
○ 一定の クッション性 |
△ 強い衝撃で 割れるかヒビが入る 吸水して浮力を 失う可能性有り |
| 耐久性 |
◎ 引き裂きに強い ※ラミネート済 の製品に限る |
○ 標準的 |
△ 経年劣化で 脆くなりやすい |
耐熱 耐火 |
◎ 難燃 自己消火性 |
× 熱で溶けやすい |
× 燃えると 有毒ガスが発生 |
| 機動力 |
◎ 薄型で伸縮する 動きやすい |
△ ブロックか板状 で嵩張る |
× 硬くて動き を阻害する
|
| 使用例 |
ガードベスト MORGEN SKY 救命胴衣 L002 |
GPS機能付き 救命胴衣 |
スマート トラッカー 付き救命胴衣
|
紫外線への耐性や、瓦礫などに対する強度は、これら浮力体の中でクロロプレンゴムが最も強く、さらに難燃性や自己消火性も備えています。ですから、火災をはじめとした多角的なリスクが想定される被災現場においては、消去法的に見て、クロロプレンゴムが、より合理的な選択肢となり得るでしょう。
また、クロロプレンゴム製のベストは、薄型設計のものが多いため、ドライスーツの給排気バルブ(逆転現象の防止)への干渉も、一般的な厚手の製品に比べてコントロールしやすいはずです。さらに、すでに お話しした通り、機動力を損なうリスクも軽減されるでしょう。
一方で、発泡ポリエチレンや硬質ウレタンフォームを用いたベストの大半は、ナイロンやポリエステル等の表地で覆われており、これらは火や熱に弱く、溶けて皮膚に付着する二次被害の懸念が拭えません。
防炎加工を施していたり難燃素材の製品もありますが、クロロプレン製と比べると素材の硬さが目立ち、ドライスーツの上に重ねた際の嵩張りが機動力を阻害する可能性があるでしょう。
こうした各素材の特性を比較し検討していくと、過酷な状況下での生存率をわずかでも底上げするための一つの選択肢として、クロロプレンゴム製のライフジャケットが浮上してくるのです。
桜マークの承認を得るためには、「ナイロン表地+PEP浮力体」の組み合わせがコスト面で最も有利なため、市場に出回っている桜マーク品の90%以上が、この構成を採用してしまっています。その結果として、桜マーク品のほとんどが火に弱い仕様になってしまっているのです。桜マークは、あくまで船舶に乗る際の「法的義務」を満たすためのものであり、瓦礫や火の粉などから身を守る「防護性能」を保証するものではないという事実があります。「法律上の安心」と「災害時の物理的な安全」は、全く別物なんですね。
さて、浮力を確保した次は、頭や手足といった各部位に防具をプラスして、瓦礫などに対する守りを少しでも足していきましょうか。
ここで忘れてはいけないのが、ドライスーツは、あくまで防水と保温(低体温症対策)のための装備であって、それ単体では衝撃から全身を守りきれず、物理的な限界があるという事実です。クロロプレンゴム製であれば、素材そのものの緩衝性による防御力を多少計算できるのですが、それ以外の素材では、衝撃に対する耐性は、ほぼゼロだと言わざるを得ません。
また、クロロプレンゴム製は、瓦礫などへの強度が他の素材より優れてはいるものの、鋭利な割れたガラスや釘からの攻撃を完全に防げるわけでもありません。
被災現場の過酷な状況下では、どの素材を選んだとしても、完璧な保護能力には至らないのが現実なんです。
だからこそ、防具を重ねて衝撃をわずかでも緩和させるといった、泥臭い対策を一つずつ積み上げていくことで、被害を多少なりとも軽減できる可能性を探るしかないのかもしれません。
ここで、装備を選ぶ際の重要な事実をお伝えします。
水上・陸上を問わず、防災頭巾には衝撃を防ぐ効力は ほぼありません。あれは技術力が未熟だった戦時中に考案されたものなのですが、その脆弱性が明らかになった現代においても、慣習として、そのまま使われ続けていることが、私には不思議でならないのです。
また、折り畳み式のヘルメットも強度の面での不安が残ります。万が一の際に頭部を保護しきれず、重大な負傷を招いた実例もありますから、ヘルメットは軽量でありながらも十分に強度が高いものを優先して選んでくださいね。
すでにお伝えしたことではありますが、頭や足の裏・手・膝などの防御方法については、別の記事に書かせていただきます。
そして、さらに、ある現象を防ぐために、浮力ベストの浮力に加えて、小型浮力アイテムを併用することで、両肩部に十分な浮力を確保するように対策をします。その小型浮力アイテムを、ポケット付きベストの両肩部のDカンにカラビナで連結するのです。
ある現象とは何なのか。さらに、なぜ、浮力アイテムを付け足す必要があるのか。そして、先述のポケット付きベストとは何なのか。次々と疑問が思い浮かび、イライラ〜モヤモヤ〜とした感覚を抱かれた方も多いことでしょう。ですが、一旦忍耐強く、その疑問を脇に置いておいて、読み進めてみてくださいね。きっと、そのうち、点と線が繋がる時が来ると思いますから……。
まず、大前提として、背中の防災リュックは水中に沈み、物理的に手が届かない存在になります。ですから、無いと命に関わる重要なグッズを防災リュックの中に集約してしまうのは、避けるべき選択だと思うんです。生存に直結するグッズは、防災リュックではなく、手の届く範囲にあるベストの前面ポケットか、あるいはDカンに集約させると良いでしょう。
前面ポケットやDカンに優先して集約させるべきグッズは、以下の通りです。
【前面ポケット内に収納するグッズリスト】
- 命を守る物:
止血などの様々な応急処置グッズ・津波火災用の防炎マスク・
熱中症の対策用アイテム・痛み止めや常用薬など。
- 衛生用品:
ウェットティッシュなど、欠かすことのできない消耗品。
- エネルギー補給:
浮力を乱さない軽さと、動作を妨げない小型サイズ。
これらの条件をすべて満たした常温保存の食品と、
小型サイズの飲料水。
【Dカンに集約させるグッズリスト】
- 光源:
電気式光源は、塩水によるショートが招く、
爆発や発火や故障のリスクがあるため、電気を使わずに、
折るだけで光ってくれるスティック型が安全です。
- 十徳ナイフ:
漂流物などが身体や装備に絡まり、拘束されてしまった際の
「切り札」です。断ち切る手段がなければ、脱出は不可能です。
- 蓄光方位磁針:
建物などの目印が一切ない暗闇の水上で、向かうべきベストな方角を知るための道標です。自ら光る蓄光式なら、ライトで片手を塞がず、機動力を維持できます。
個々の事情によって、眼鏡など必要な物は増えることでしょう。そこはご自身の状況に合わせて、慎重に判断してみてくださいね。
先ほどのリストの中にあった、「熱中症」の対策用グッズについて、お話ししましょう。
ドライスーツの断熱性の高さは生存時間を延ばす一方で、内部に熱を閉じ込め、命に関わる熱中症を引き起こす可能性があります。本来ならばドライスーツを脱いで体温を下げるべき状況ではあっても、濁流のなかでジッパーを開ければ、即座に浸水し命を落とすことになってしまうでしょう。
ジッパーを開けられないという絶対的な制約がある以上、露出している頭部や首筋だけを狙って冷却するという、不完全な妥協案を採らざるを得ないのかもしれません。熱に弱い脳の損傷を防ぐために頭部の過熱を抑え、太い動脈が通る首筋を冷やすことによって、冷却された血液を全身に巡らせる。それによって、極わずかでも体温の上昇を緩和させる。こうした細かな工夫が、生死の境目を分けることもあるのかもしれません。
激しい濁流に揉まれるなかで、使用できるタイミングは極めて限られてしまいますが、冷却スプレーや冷却パックを使用すれば、幾分かは状況は改善できるのかもしれません。ただ、これもあくまで妥協案にすぎませんから、過度な期待は禁物なのですが……。
冷却スプレーは、肌に使用不可の衣類専用ではなく、頭や肌に直接噴射できるタイプを準備してくださいね。使用時、凍傷を避けるために『同じ箇所に3秒以上噴射しない』という注意事項を必ず守ってください。
また、冷却パックも選択肢に入りますが、持続時間が30分程度と短いうえに、肌の上で固定しづらいという難点もあります。ちなみに、ジッパーバッグによる自作の冷却パックは、この状況下では機能しません。こうした自作品は、衝撃のない平時でさえも液漏れするほど脆弱なんです。ですから、地獄のような濁流に晒されるなかで、自作品が耐えられるはずがありません。
また、津波火災の対策として、携帯用の防炎マスクも必ずベストのポケットの中に入れておいてくださいね。火災による死因の約80%は、「煙に含まれる有毒ガスによる窒息死」なんです。
この煙対策については、【火災による死亡の原因の8割は煙 この煙への対策について】という別の記事のなかで詳しく解説しています。この記事の最後にリンクボタンを置いておきますので、のちほどご覧ください。
これら命を守るグッズを、塩分や有害物質を含んだ泥水から守り抜くために、防水ケース(バック・ポーチ)などによる保護を徹底してください。
ですが、すでにお伝えした通り、最高水準のIP68であっても、わずかな時間稼ぎにしかなりません。ですから、一つの防水グッズに頼り切るのではなく、防水ポーチなどの中に、さらに個別の防水ケースなどを入れて何重にも重ねていく「多重防御」を行ってくださいね。
この方法は取り出しやすさを著しく損なうため、本来ならば、お勧めしたくはありません。非常に心苦しいのですが、救命用グッズが汚損し、いざという時に全く機能しなくなるという事態を、何としてでも防がねばなりません。防災リュックの中に眠らせて全く取り出せなくなるよりは、まだマシであるという判断のもと、仕方がなく、この不自由な方法を提案させていただいております。
予算に制約がある場合は、外側をしっかりとした防水ポーチ(バック)などで覆い、その内側をジッパーバッグにする構成でも、一定の防御層は作れます。ただし、100円ショップの製品は避けてくださいね。耐久性がないため、過酷な状況下では防御層としての役割を果たせなくなってしまうんです。
こうした多重防御を施した上で、さらに外側を【クロロプレンゴム製のバッグ】で包み、ベストのポケットに収めます。
なぜ、さらに【クロロプレンゴム製のバッグ】の中に入れるのか。そこには、一つで三つの役割を果たさせるという目的が存在しているのです。
- 一つ目:瓦礫などの衝突から中のグッズを守る緩衝性。
- 二つ目:火の粉の接触からグッズを守る難燃性。
- 三つ目:クロロプレンゴムの浮力を利用して
「ドライスーツの逆転現象」という命に関わる現象を防ぐため。
「ドライスーツの逆転現象」とは、ドライスーツ内の空気が足元へ移動し、下半身が浮き上がることで頭部が水中に沈んでしまうという、極めて危険な現象を指しているんです。過去に死亡例もある重大なリスクの一つなんですね。たとえ浮力ベストを装着していても、防ぎきれない場合があるんです。
これを防ぐには入水前に空気を抜く「スクワット排気」などの方法があり、やり方を知っていれば、素人であっても実行自体は可能です。
ですが、体の自由が利かない怪我人・病人・障碍者・高齢者などの方々が行うのは物理的に不可能ですし、若い健常者の方々であっても、津波到達時間が数分の地域の場合、装備を整えるだけで精一杯で、スクワットをする時間なんてないでしょう。
だからこそ、クロロプレンゴム製のバッグが保持している「浮く力」を借りるのです。時間や体力がない状況でも、浮力の位置をコントロールすることによって「自然に仰向けになれる状態」を強制的に作り出します。グッズの防御と姿勢の維持。これらを一つの道具で同時に成立させる、この方法は、過酷な現実を抱える方々にとって、比較的無理が少ない対策なのではないかと、私は考えています。
さらに、クロロプレン製のバッグには、クロロプレンゴム製のストラップ(下に画像有り)を取り付け、ベストの肩部にあるDカンや肩紐へカラビナで連結してください。
激しい濁流に揉まれれば、ポケットのジッパーが開き、中身が飛び出す可能性があります。その際、バッグとベストが繋がっていれば、完全な喪失を免れる確率は高まりますし、ストラップ自体の浮力が、バッグの沈没を防ぐ助けになってくれるのかもしれません。
もちろん、津波の破壊力は凄まじく、喪失の可能性をゼロにはできませんが、何もしなければ、グッズを失う確率は格段に跳ね上がってしまうことでしょう。
また、水流が落ち着いた後、机や足場のない水面で止血などの処置を強いられる状況も想定されます。その時、バッグとベストが連結されていなければ、作業のしづらさはもちろん、不注意で流してしまうリスクも大きくなるでしょう。
そして、このストラップの浮力にも、逆転現象を回避させる役割を担わせます。逆転現象を物理的に回避するためだけではなく、身体の左右の浮力バランスを保つためにも、このストラップを左右対称に2本ずつ、計4本配置するようにしてくださいね。
ストラップの素材にクロロプレンゴムを選ぶのには、他にも明確な理由があります。
一つは、「滑りの良さ」と「柔軟性」による絡まり難さなんですね。金属の鎖や硬質樹脂や紐と比べれば、濁流物をいなしやすく、絡まりそのものを防いでくれる特性があります。
そして、もう一つは、万が一絡まってしまった際においての「切りやすさ」です。金属や硬質樹脂は、緊急時に容易に切断ができません。しかし、クロロプレン製なら、たとえ、かじかんだ手で十徳ナイフを扱うような状況であっても、狙った箇所だけを切り離し、浮力を確保したまま脱出できる可能性があるのです。
収納スペースを確保するために、なぜ私が、ある特定のフローティングベスト(下に画像有り)を選択肢に入れたのか。その理由を詳しくお話ししますね。
フローティングベストとは、一般的に大容量のポケットを備えた浮力ベストを指しますが、正直なところ、私の狙いは、その浮力そのものにはありません。
市場に溢れる防災ベスト(ポケット付きベスト)の多くはポケットが小さく、防水対策や防御を重ねて嵩張ってしまった荷物が収まりきらないんです。また、形状がルーズすぎる点も問題でありました。
私が求めるベストの条件は、腕の振りや動きを妨げない「タイトな腕周りや肩周り」と「タイトな横幅のポケット」でありながら、多重防御で嵩張ってしまった荷物を収納できる「大容量のポケット」が付いていることなんです。横幅はタイトなのに、容量は大きいなんて、一見すると矛盾する条件のようなんですが、実は、これらの条件を満たす製品が存在するのです。
さらに、ドライスーツの給排気バルブ(逆転現象の防止)への干渉を防ぐ「スッキリとした肩周り」も重要なんです。防災専用品である防災ベストは肩周りの面が広く、タイトに設計されているものが意外と少ないんですよね。
そして何より、Dカンの位置も重要です。具体的には「肩の近く、左右対称」にあることが必要不可欠です。腹部周辺に浮力が集中すると、お腹だけが浮き上がり、頭部と足が沈み込むという極めて危険な状態を招きかねません。肩周辺に浮力の支点を置いてこそ、顔が水上に出やすくなるんですよね。
また、ポケットのマチは約4cmですが、タックやギャザーがないため、膨らみすぎて足元が見えなくなるというリスクも多少抑えられるのではないかと考えています。瓦礫などが散乱し、地面が割れている災害現場において、足元の視界が完全に遮られてしまうのは、非常に危険な状況の一つですからね……。
こうした様々な条件を消去法で精査していった結果、防災ベストではなく、このフローティングベストに行き着きました。(もちろん、防災ベストを否定するつもりはありません。津波の懸念がない地域で、お子様を背負う必要があるなど、リュックが使えない状況では、有効な選択肢となり得るでしょう。)
さらに、補足として付け加えておきます。
塩水対策が施され、かつショートによる爆発リスクを回避できる運用が可能な「特定の無線機」については、別の記事で詳説する予定です。そのため、救助笛や反射板については、正直なところ「お守り」程度の認識でしかありません。
ただ、このフローティングベストには、それらも標準装備されています。
広い海の上で、どこまで実用性があるかは未知数ですが、救助を待つ際、何もしないよりは、発見される可能性が数パーセント上がるのかもしれませんね。
それから、安価であることも、備えを普及させるためには重要ですよね。このフローティングベスト、ベスト類のなかでは、かなり安価なんですよね。
ただし、注意点もあります。
この製品は公的な認証(桜マークやCE認証)を通過したものではありません。ゆえに、浮力バランスについては「未知数」なんですよね。仰向けで静止ができる良品なのか、それとも水中で姿勢が崩れてしまう粗悪品なのか、確証が持てません。つまり、浮力ベストは、ただ浮けばいいというわけではないんですよ。
だからこそ、私はフローティングベスト自体の浮力を「ないもの」として扱うことにしています。自分で浮力アイテムを付け加え、浮力の支点を調整することで、製品の個体差に依存しない安全を自ら構築するという手法をとっています。
フローティングベストの浮力を当てにしない理由は、もう一つあります。
例えば、狭い隙間をくぐり抜けなければならない時など、何らかの理由で、グッズが詰まって膨らんだベストを脱がざるを得ない局面もあるのかもしれません。もし、フローティングベストの浮力に生存の可能性を依存してしまっていたら、その場で脱ぐといった選択は不可能になるのです。そういった理由もあるのです。
あえて不満点を挙げるのならば、表地がナイロン製で熱に弱い素材であることなんです。肩周りが細いベルト状であるため、露出部である頭部や首に、溶けた素材が張り付くリスクは比較的低いのかもしれませんが、火災への脆弱性が残る事実に変わりはありません。
もし、先ほど挙げた収納や構造の条件を満たしつつ、耐熱性に優れた素材のベストを見つけたならば、迷わずそちらを選んでくださいね。
一方で、スマホやモバイルバッテリーなどは、決してポケットには入れないでください。
リチウムイオン電池が海水でショートして爆発もしくは発火した際、それらが胸元にあれば、心臓や喉に致命傷を負ってしまうでしょう。連絡手段を失うリスクと、至近距離で爆弾が爆発するリスク。どちらがマシかは、あまりにも明白です。
これらの精密機器は、ポリカーボネート製の防水ハードケースに入れ、さらに防水ケースやポーチなどを重ねるなどの「多重防御」を施したうえで、防災リュックに収納するようにしてくださいね。
ポリカーボネートの圧倒的な耐衝撃性と耐圧性は、精密機器を物理的な破壊から守る数少ない手段のうちの一つですが、これが入るサイズのベストのポケットは まず存在しません。また、塩水や汚染水に触れればショートし、故障や発火や爆発を招く恐れがある電気製品を、水上で無理に扱うべきではないという考えもあります。こうした「収納限界」と「使用不可能」といった2つの理由から、ベストのポケットの中ではなく防災リュックの中へ収納するべきだと、そう考えているんですね。
また、フローティングベストのポケットの中には、決して重い物を詰め込まないでください。あわせて、両肩付近のDカンには、クロロプレンゴム製のストラップなど、浮力のある物以外を連結しないようにしてくださいね。重さによって浮力バランスが崩れ、最悪の場合、逆転現象を招いてしまう恐れがあるからです。両肩付近は、あくまで、浮力を補強するためのアイテムを連結させる場所だと、そう認識してください。
リストで挙げた光源や十徳ナイフ、コンパスなどは、肩部ではなく腹部のDカンに連結するように注意をしてくださいね。
あとは、防災リュックの空気を抜いておくのも、意外と重要なポイントです。背中側に浮力が発生し、全体の浮力バランスが崩れてしまうからです。背中側に浮力があると、何故、ダメなのかについては、この記事の最後のほうで触れていますので、のちほど確認をしてみてくださいね。
また、忘れがちなのですが、浮力の計算には、自分自身の体重だけではなく、防災リュックやフローティングベスト、それらの中に入れたグッズ、靴や衣類、ベスト自体の重さもすべて含まれます。これら全部の合計が、浮力ベストの許容範囲に収まっているかどうかを、必ず確認してくださいね。自分の体重だけで計算をして、いざという時に、浮力が足りないという事態になることだけは、何としても防がねばなりませんから……。
なお、防災リュックの重さを感じにくくさせるパッキングの方法は、水中と陸上とでは気を付けるべきポイントが少し異なります。空気の抜き方や、パッキングの方法については、別の記事で詳しく解説しますので、ぜひ、そちらをお待ちくださいね。
さらに、ここで、排泄という避けられない問題点についても、お話しをさせてください。
激しい濁流に流されている最中、当然ながらトイレに行くことは不可能です。そのため、ドライスーツを着用する前には、必ずオムツも装着し、さらに尿取りパッドも重ねておくことを強くお勧めします。
冷たい水の中に身を置くと、身体は体温を維持しようとして末梢血管を収縮させ、結果として尿意を異常に促進させます(浸水利尿)。極限状態において、排泄を我慢することは単なる苦痛に留まらず、集中力を著しく削ぎ、大きな判断ミスを誘発させる要因となってしまうことがあります。生き残るためには、生理現象による判断力の低下をあらかじめ摘み取っておくことも重要なんですね。
ただ、オムツが限界を超えて膨張してしまった場合、股関節の可動域を狭めたり、スーツ内の圧迫感を強めたりする可能性があるため、完璧であるとは言えませんが……。
さらに注意点ですが、パンツ型(オムツ型)の月経用品で代用するのは避けてくださいね。尿用製品には水分をゼリー状に固める能力がありますが、月経用には それがありません。ですから、身体が冷えてしまう上に、サラサラ感がなく、気持ちが悪い状態が続くでしょう。また、大量の水分を吸収させる能力もないため、外部に漏れてしまう可能性もあります。
自力で生き残るための対策には、こうした一見すると些細な違いを考慮した様々な準備が重要なのかもしれません。
今までお話ししてきた方法なら、手足の末端の自由を保ったまま「浮力・防御力・保温力・機動力・難燃性」の五要素を、自分に合ったサイズ感で整えることができます。手足の先まで膨らんで何も掴めなくなってしまう製品に頼るよりも、この方法の方が、いくらか合理的なのではないかと、そう思っているんですね。
もちろん、この方法が完璧だとは思いません。相手が津波や水害ですから、どれだけ防御力を足したところで、物理的な防御力には限界が生じることでしょう。
ですが、100点満点の装備が販売されるのを待っている間に命を落とすよりも、今手に入る製品を組み合わせて「生存率を何割か高めていく」。そういったことが、現時点でできる現実的な防災対策なのではないかと、私は考えています。
浮力付きリュックサックの危険性
【浮力付きリュックが抱える致命的な欠陥】
浮力がついたリュックサック型の製品も存在します。ですが、これは、論理的に考えて、アウトだと判断せざるを得ません。リュックサックは背中側に背負うものです。浮力によって背中側が上に引っ張られれば、当然、顔は下向きになり、強制的に水の中に沈められてしまうでしょう。
流れのない静かな水の中であれば、自力で体勢を整えることはできるのかもしれませんが、激しい水流がある場合、人間の力なんて無力です。その結果、顔が水中に沈んだままの状態になり、呼吸ができなくなってしまうでしょう。
このような懸念から調べてみたところ、やはり実態は その通りでした。自衛隊の方々は、流れのない静かな水の中で浮く必要がある場合(非災害時)、空気を入れたリュックサックをお腹側に掛けるそうです。背中側に背負うと、先ほど私が説明したように酷く危険な状態になってしまうのだそうです。
【全力疾走を阻む「重心の狂い」と、掛け直しのタイムロス】
では『お腹側に抱えて避難すれば良い』というお話になるのかもしれませんが、そこにも別の課題が横たわっています。津波時の避難は一分一秒を争う全力疾走です。お腹側に大きな荷物があれば、足元の視界が遮られるだけではなく、走行時の重心バランスを著しく損ない、機動力を低下させてしまうことでしょう。
また、背中に背負って走り出し、入水の直前に前へ掛け直すという判断も、現実的には、かなり厳しいのではないでしょうか。瓦礫などの落下物を回避しながら、あるいは、突然崩落する地面から逃れながら、パニック状態で重い荷物を身体から一度離し、掛け直す。その数秒の猶予が、落下物への回避行動などを遅らせてしまう可能性だって否定できません。
最初からそうした「手間」を必要とせず、無意識の状態でも呼吸を確保できる構造であること。それが、極限状態における道具選びの基準になるべきなのではないかと、私はそう考えています。
【普及の裏で、後付けのように追記される注意書き】
なぜ、ある企業が浮力付きのリュックサックを開発してしまったのか、不思議に思えてなりません。論理的に考えれば、かえってマイナスになることが分かりそうなものですが……。実際に使用実験などは行われなかったのでしょうか。
最近は、こういった製品の説明のされ方が変化してきました。何年か前にはなかったのですが、最近は『リュックサックをお腹側に掛けると良い』といった説明書きが追記されています。浮力が背中側にあることの問題点が、ようやく認識され始めたのかもしれませんね。
ですが、お腹側に掛ければよいという問題ではないことは、先ほどお話しした通りです。
【「一体型」が、狭い空間での脱出を阻む可能性】
ライフジャケットとリュックサックが一体化した製品についても、少し慎重な見方が必要かもしれません。
災害時は、瓦礫と瓦礫の間をすり抜けなくてはいけない状況も多いことでしょう。そんな時、リュックサックの膨らみが物理的な障害となることが多々あるでしょう。その際に、もしリュックサックを脱ぐことができれば、問題が軽減されるケースも極少数あるのかもしれません。ですが、浮力に関して、一体型のアイテムだけに頼ってしまっている場合には、それを脱ぐこと自体が、死の可能性を高めてしまうが故に、可能ではないのです。
ですから、浮力の確保と荷物の運搬、これら二つは、状況に応じて切り離せる状態にしておくのが、より柔軟な対応を可能にするのではないでしょうか。
【「手動」であることが、生存のための片手を奪う】
それから、防災士監修の手動膨張式ライフジャケット付きリュックサックといった製品も見かけたことがあります。気体で膨らませるタイプそのものの問題点は、すでにお話しした通りですが、手動式であることも問題なんです。
津波で奇跡的に助かった方々の多くの共通点が、必死で何かにしがみついていたことであるのならば、一瞬でもタイミング悪く片手の自由が奪われてしまうことは、非常に深刻な問題となる可能性があります。また、地面が崩落し、突然、猛烈な水圧と高速な水流の中に引きずり込まれてしまった場合、手で何らかの細かい操作をする余裕があるのでしょうか。(この場合、お腹側に掛け直すタイプも不可能)
何故、そういった様々な問題点を考慮しなかったのでしょうか。
【顔が水中に沈まない設計の浮力付きリュックサック!】
胸部や腹部にベルトが付いているタイプのリュックサックの中には、ベルト部分に浮力体があり、その浮力によって顔が下向きにならないように設計されている製品もありました。以前は そういったタイプの製品も見かけたのですが、最近の市場環境や製品ラインナップにおいては、事情が変わってきているようですね。
こうした設計の製品であれば、一定の効力は期待できるのかもしれませんが、リュックサックを背負っている時以外は、浮力が得られないという無視し難い問題点があります。ですから、常に装着が可能な浮力ベストをも併せて準備しておいた方が良いのではないかと、そう思っているんですね。
ベルト付きリュックサックと浮力ベストを同時に併用するという方法も、もしかしたら、有効なのかもしれません。これらを組み合わせることによって、何重にも浮力が働くことになりますし、同時に荷物が水の中に沈んでしまうという事態も防げるのかもしれません。
もしも、人間の生命と備蓄品の両方を守り抜きたいのであれば、浮力ベストとベルト付きリュックサックを両方併用する。こういった併用法は、たとえリュックサックを身体から外さざるを得ない状況が生じたとしても、備蓄品喪失という可能性を、極わずかでも軽減できる可能性が生まれるでしょう。
このように様々なアイテムを併用する形が、現在考えうる、消去法的な防災対策のうちの一つなのかもしれません。
それでは、ここで、本記事における情報提供を終了しようと思います。
この記事は長文ですよね。読み終えた今は、きっと、ひどくお疲れなのではないでしょうか。あなたの貴重な時間を、この記事に預けてくださったことに深く感謝いたします。
結局のところ、何が正解かは一人ひとりの環境によって大きく変ってしまいます。それ故に、私自身も、物理的な事実を並べることしかできず、最後まで明確な答えを提示することができませんでした。
だからこそ、あなたが今日ここで悩み考えてくれたこと。その事実そのものが、私にとって一つの「救い」になります。
大変疲れたと思いますから、力尽きてしまうことがないように、どうか、一旦ゆっくりと心身を休めてくださいね。
この記事を、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
それでは、失礼いたします。
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